現代の日本では、保育園不足による待機児童の増加が大きな社会問題になっています。少子化が進む現代において、保育園の数が不足するのは不思議な感じもしますが、それだけ働く女性が増えていることを意味しています。そして、それと並んで待機児童増加の主因となっているのが、保育士不足です。保育園を増やしたくても保育士がいなければどうしようもないというわけです。その問題を解決するために、厚生労働省は保育士不足の解消を目標とした『保育士確保プラン』を策定しました。それがどのようなものかを説明していきます。
保育士不足といっても、その実態は地域によって大きく異なります。そして、特に深刻なのが東京です。2015年の保育士の有効求人倍率は全国平均で1.85倍ですが、東京ではなんと5.44倍にもなっているのです。(※1)これは必要な保育士の数に対して5分1以下しか応募がなかったことを示しています。いかに東京の保育士不足が深刻か分かります。地方と違って多様な仕事がある東京の保育士の数の不足は顕著です。その結果が、2017年末までに全国で46.3万人の保育士が必要とされる中で、2013年時点で37.8万人しか確保できていないという現状につながっています(※2)。
(※1)保育士等における現状、厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/4.pdf
(※2)「日本再興戦略」改訂2015ー未来への投資・生産性革命ー 、厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000095797.pdf
圧倒的な保育士不足を踏まえて発表された『保育士確保プラン』ですが、その内容は以下の4つを柱として構成されています。
・人材育成
保育士になるには、筆記試験と実技からなる国家資格に合格しなければなりません。この資格が取得しやすい環境をいかに整えるかが、保育士を確保するためのポイントひとつとなります。
・就業継続支援
保育士は、早期離職が非常に多い職業です。結婚や妊娠を機に退職してしまう人が多いからです。そうした人たちを対象に仕事を続けていけるように支援を行うのも大切です。
・再就職支援
結婚や妊娠などで保育士の職を離れていても、子育てが一段落すれば再び働きたいという人も少なくありません。また、保育士資格登録者は2012年の4月1日の時点で112万人を越えています。こうした人たちに保育士・保育所支援センターの活用を促し、再就職の門戸を開くことも人員不足の解消には欠かせません。
・働く現場の環境改善
いくら就職の機会を拡大しても肝心の職場に魅力がなければ、根本的な解決は望めません。最終的には労働環境の改善が保育士確保の鍵を握ることになり、それが現在の大きな課題でもあります。
以上の点を踏まえた具体的な取り組みは以前から続けられており、今後も随時新しい対策を実施していく予定になっています。
保育士の人材確保が急がれる中で、策定された保育士確保プラン。その枠組みの中で、新たに行われている取り組みとしては以下のものがあります。
・保育士試験の年2回実地
保育士試験は児童福祉法で年1回以上実施することと定められていますが、資格取得のチャンスを増やすために、年2回実施行するように働きかけていくというものです。そして、その議論の中で生まれた『地域限定保育士制度』が新しい試みとして注目されています。これは、資格取得後3年間は指定された特区でのみで資格が有効となる制度で、特定の地域の保育士不足解消が狙いです。
・保育士に対する処遇改善の実施
勤続年数や経験年数に応じた公定価格の見直しが、処遇改善の柱です。また、私立保育所の保育士に関しては、『保育士等処遇改善臨時特例事業』によって、賃金上げのための対策に取り組んでいます。
・保育士養成施設の学生に対する就職促進活動の支援
学生に対して保育園の見学や保育士との交流会を行っている学校に、就職促進活動の費用を援助するというものです。
・保育士試験の受験者に対する学習費用の支援
保育試験の受験希望者が受験講座を受講する場合、その料金の一部を助成する方針が検討されています。
・保育士試験科目の一部免除
社会福祉士や介護福祉士の資格を取得している者に対して、試験を一部免除することによって資格の取得を容易にしようというものです。なお、試験の一部免除については、看護師や小学校教諭も同様な扱いにするかどうかで議論されています。
働く女性を支え、また、幼児教育の一端を担う意味でも保育士はなくてはならない存在です。その価値が世間に正しく認知され、正当な評価の元で保育士を目指す人が増えていくことが望ましいのは言うまでもありません。そのためにも、保育士確保プランが、今後どこまで思い切った対策を打ち出し、どうような結果を出すかが注目されています。
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